満を持して、このわたくしの話しです(笑)。とりあえず、期待されるようなオチはないことを、先に白状しておきます。
もうあのパート時代から、15年以上も経ちます。
パートをしていたコンビニ工場は、大学生も多く働いていました。夜勤で来るくらいだから、日中は学校があったり、別のアルバイトをしていたりと、彼らの多くも苦労人でした。その中で、T君という背の高い男子学生がいました。
わたしは、彼と出勤時間が同じでした。この時間帯の人間は少数でしたので、自然と顔見知りになりました。最初に、話したきっかけをまだ覚えています。大雨の夜、原付バイクで来ていた彼は、レインコートを着ていたもののずぶぬれ。駐車場でその濡れネズミ姿を見て、わたしはとっさに車に積んであったバスタオルを差し出しました。「大丈夫です」と辞退する彼に、「いいから!ざっと拭きなさい!」と、おせっかいしました。
工場の中では、男子学生は、仕分けの仕事をする人がほとんどでした。ところが彼は、半端な出勤時間のせいで、おばちゃんばかりのトッピングというフロアーに回されることが多かったのです。すぐ文句を言ったり、ダメ出しをしたり、クセの強いおばちゃんの中で、T君は黙々と頑張っていました。
おばちゃんに何か言われると、ぶち切れて、すぐ辞めてしまう大学生もいる中で、そういう姿を見れば、やっぱりかばってあげたくなるじゃないですか。それはやはり、好意、だったと思います。
T君も、わたしの仕事をよく手伝ってくれました。声をかけなくても、すっと近くに寄ってきて、物を近くに移動してくれたり、補充してくれたり、気遣いをしてくれます。そのため、忙しくて手が回らなくなると、自然に彼を目で探すようになりました。すると、すぐ、気づいてくれるのです。もちろん、わたしにだけではなく、周囲の状況もちゃんと見てくれます。そのため、だんだんおばちゃん達の受けも良くなりました。
大学を卒業しても、依然夜勤に来る彼に話を聞いたところ、就職できなかったんですと言いました。実家に帰っても肩身が狭いので、と。この時から、時折雑談を交わすようになりました。大袈裟に言えば、わたしにとってこのひと時は、1つの大事な楽しみとなりました。
仕事を先に辞めたのは、わたしの方です。最後の日、わたしはお世話になったお礼を言いました。話さなくても良かったことなのに、つい家の事情まで明かしてしまいました。それまで、職場の誰にも話したことがなかったのに、です。
今から思えば、彼は今の上司さんと同じ年ごろ。いわゆる、就職氷河期だったのです。
わたしはそんな事情とは知らず、気に入った会社に入れなかったのかな、なんて軽く思っていました。今から思えば、大変苦労した世代です。
その5年くらい後、彼もまた辞めたと風の噂に聞きました。今頃、どこでどうしているかな。あの後、ちゃんと就職できただろうか。あの、真面目で誠実な性格が災いしていないだろうか。幸せな人生を送っていますようにと、願わずにおれません。